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人間にはいろんなタイプがある。 性格が正反対でも、タイプの合う人間はいるものだ。 例えば、御剣怜侍と矢張政志がそれであった。 「フーン、アイツにゃ言えないのね…じゃ、オレが聞くしかないわけだ」 常人ならひきまくってしまう御剣の逆ギレにもまったく動揺しない。壁にかかった古臭い時計に視線を投げると、時間になったら帰るぞ、と念を押してから、またお茶を頼んだ。 「ま、ともかく話してみろ。聞くだけ聞いてやっから」 「ふ…」 「ふ?」 「触れたいのだ…」 しばらく逡巡したのち…さっきの大声で極度の緊張状態から脱する事ができたのだろうか、やっとのことで出てきた御剣の第一声は、裁判所で張り上げている声からは想像つかないほどか細かった。 「触れたい?何に」 「それは…何と言うか…あ…」 「あ?」 「いや…そ…その」 血の気の少ない御剣の顔がみるみるうちに朱に染まる。しかも目があらぬ所をさまよっている。 「…何と言えばいいのか…こ…こ、こ、この…」 「この?」 「…気持ちが…」 (はは〜ん…) その先の言葉は赤面したままうつむいた口の中に消えてしまったが、矢張にはもう充分だった。どうやらなんとも意外というか珍しいというか面白いというか。相談内容は「恋愛」だったらしい… (ま、成歩堂には相談したくないよなぁ。あいつは男の甘い浪漫を解するって気持ち?が足りねぇもん) 「愛の放浪者」を自称する矢張である。よく言えば恋愛経験豊富、悪く言えば長続きしない、ということだが、それはこの際関係ない。とりあえずは人生の先輩として、初心で奥手で童貞(と矢張は勝手に決め付けた)の御剣に「正しい恋愛のはじめ方」だけ説いてやればいいのだ。 それも『御剣』に。 顎鬚を引っ張りながら優越感とうきうきとした好奇心でにやけた顔をひきしめると、余裕たっぷりに目の前で茹だっている相手に声をかけた。 「あ〜わかったわかった」 「いや…だから…」 「うんうん、それ以上言わなくていい。つまりは触りたいんだな?」 「…うむ」 「触ってスリスリペタペタなでなでしたいんだな?」 「…なでなでと言うよりホワホワなのだが…」 「ふん、ホワホワ…」 ホワホワ? 巨乳に顔を埋めたいって事か? (なるほど…実はマザコンのケがある…っと) 「…何だ?」 「いや、何でもねぇ。で、まぁおまえはホワホワしたいわけか」 「……うむ」 「ま、相手が誰だか知らねぇけど…ともかくだ!」 そこでビシィっと指を突きつけた。成歩堂の真似をしてみたのだが、幾分気迫が足りない。しかし、平常心を失っている御剣には充分効果があったらしく、グッと仰け反っている。 「ともかく…相手にその気がないのにホワホワしたらただの痴漢だ!」 「ち、ち、ち、ちか、痴漢…!」 「痴漢はいけねぇ」 「あ、当たり前だ!私は検事だぞ!そ、そ、そんな強制わいせつ罪に当たる行為など…」 「キョウセイワイセツだかはどうでもいいんだよ。重要なのは…」 「重要なのは…?」 「まず双方恋におちなきゃいけねぇってことだ」 |