(それにしてもねぇ…)
御剣がアイドルとは。
(アイドルってidolって書くんだよな、偶像、熱狂、崇拝する対象…)
役にも立たない中学英語の知識を引っ張り出してみたが、どれも御剣のイメージとはしっくりこない。
成歩堂の想像するアイドルは若くてルックスがよくて華やかでテレビに出ててみんなが騒いでて――
(って、あれ?)
御剣は当たり前だが自分と同じ年だ。
やや苦しいが若い部類に入るだろう。
ルックスは……無愛想に顰め面をしてるけど、顔貌は整っている。少なくとも子供の頃はすごく可愛かった。(今はあんなだけど)
雰囲気は華やかというか、派手だ。(とくにあのフリルが)
テレビにも出た。(殺人事件の容疑者として)
――案外当てはまるかも
あとはキャーキャー騒いでくれるファンさえいれば、条件だけならアイドルになれる。
いや、騒いでくれるファンはすでにいるのか……警察署内には。
成歩堂は糸鋸のいる捜査一課の様子を思い浮かべてみた。
微妙に殺風景で、全体としては雑然としている。
重大事件を扱うせいか男ばかりでむさ苦しい。
そのくせ、ところどころに妙に可愛いものが置いてある。
(で、御剣を囲んでみんなでキャーキャー騒ぐ、と…)
どういうわけだが。
成歩堂の脳裏には、腰ミノをまとった糸鋸ほか捜査一課の面々が野太い奇声を上げながら、むっつりと額に青筋浮かべたまま正座している御剣の周りを踊り狂っている場面が浮かんだ。
謎の部族の生贄の儀式みたいだ。
第一、御剣のむすっとした表情がよくない。
アイドルたるもの、ファンには笑顔で答えるのが基本のはず。
(でも、素直に笑顔の御剣ってのも…)
それはそれで見てみたい気もするけど、実際いきなりにこやかに御剣が笑いかけてきたら、嬉しいとかそういう感想を抱く前にものすごく怖いというか意外というか…まぁ、驚愕する。
腰を抜かすかもしれない。だってどう考えても普通じゃない。
自分が夢を見てるのか、それとも御剣に熱があるのか、の二択だ。
御剣の額に手を当てながら自分のほっぺたをつねってみて、痛くなかったら夢。熱かったら御剣は病気。
いや、そんな判定方法はともかく。
いくら拡大解釈してみても御剣にはアイドルの素質がないと思う。
警察の人間ってわからないよな、と頭を振りながら思わず呟いた。
「やっぱり無理だよ、御剣じゃ…」
「何が無理なのだ」
いきなり背後から突き刺さった聞き覚えのある声に、本日2回目の大声を出してしまった成歩堂だった。
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